恋して、チェリー
‐‐恋の神様と落とし物
「……あつ…」
額に流れる大粒の汗を、手の甲で拭う。
こんなに暑いってのに、部屋のエアコンはなぜか故障。
扇風機の風だけが、今のあたしの癒やしになりつつある。
「……」
夏休みに入って、もう1週間以上が過ぎた。
恋愛に生きていたあたしの時は、あの瞬間から止まったまま。
――『別れよう』
あの言葉も、胸に突き刺さったままで。
再生不可と診断されたあたしのハートは、直後の大手術で一命を取り留めた。
「……よわ…」
胸に手を当ててみると、今にも止まってしまいそうな弱々しい振動が伝わって来る。
あの時、彼はどんな表情をしていたんだろう。
どんな気持ちでいたんだろう。
今となっては、それを知る術などないけれど。
「ははっ、……思い出せないや」
彼を忘れる代償として、あたしのハートは一命を取り留めたんだ。
思い出そうとすれば、ズキリと痛み――それを頑なに拒む。