【完】甘いカラダ苦いココロ

彼の正体


 少し丸くなる背中、リズミカルに動く腕の筋肉、時折膨らむ頬。シャコシャコと磨かれていくコミカルな音。私は翔梧が歯を磨く姿を見るのが好きだ。

 シャワーを浴びた髪はまだ湿り気を帯びたまま。鏡を見つめ、無心になって丁寧に磨いている。その無防備な姿からはいつも育ちの良さを感じた。

「また見てんの?」

 照れる顔に笑顔を返す。早番の今日は久しぶりに翔梧が泊まりに来ていた。

「今、大学早いんだね」

「うん、まあ……試験中だから……」

「試験!? 勉強は? 帰ってしなくていいの?」

「勉強なんて土壇場にやっても意味ないよ」

 当日ギリギリまで教科書を暗記しようと足掻いていたタイプの私からは想像もできない言葉。

「……翔梧、頭いいんだね」

 軽く口を濯いで、ソファーに座る私に向かって歩いて来た翔梧を見上げる。

「え? 普通だよ」

「そのセリフが余計余裕を感じさせる〜」

「なにそれ」

 笑いながら顔を寄せてくる翔梧。ほのかなシャンプーとミントの香り。

「勉強できるいい男って好き?」

 反則物の甘く響く声と甘い綺麗な顔が数ミリ先にある。

「……すき」

 答えと同時に塞がれる唇。温かい唇。そしてまた何も考えられなくなる……。


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