夕陽の向う
3-5

睦子はこの頃、もう元がどう生きていきたいか、判ったような気がしていた。

判ったから、自分はできるだけ幸せな気持ちを保って、元に感謝して生きていきたいと思う。

そのことが、元を一番安心させるのだと。


二人の家を、裏のほうに少し坂を上がると、なだらかな丘の上に出る。

二人は、ここを、朝夕、犬を連れて散歩する。

丘は畑になっていて、視界を遮るものが無い。

一番高い所に立つと、東は東京湾を超えて房総半島が、西は相模湾を超えて伊豆半島が見える。


朝日が房総の上に昇り、
東京湾を煌めかせると、
西の伊豆半島の右側の、富士や箱根が、
頂上から赤く染まっていく。

日が高くなれば、鳥が鳴く。

春はヒバリ、鶯。

夏になればツバメが飛び交う。

夕陽が空と相模湾を茜色に染める時は、
伊豆・箱根・富士は墨色のシルエットになる。

二人は、ここの景色が大好きだ。

まるで自分のもののように自慢している。


余命宣告の後も、二人はここを散歩した。

体調が許す限り、家にいるときは、散歩をした。

元には、それがストレスの解放になる。

少し長生きできるような気がする。


睦子には、今、元といることの幸せを、かみしめることになる。
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