夕陽の向う
4-2

睦子はこの話をブログで読んで、元に聞いた。

「難しい話は、よく判らないけど、私にはあの世があって欲しい。

神様とか、仏様とか、どっちでもいいけど。

親子は一世の仲だけど、夫婦は二世の契りだと聞いたことがあるわ。

元と、私が、二人とも死んでも、あの世でまた夫婦になれるんじゃないの?」


元は、少し困った顔をしたかもしれない。

睦子の気持ちは理解できる。

今回自分が、余命を宣告されて、最初に思ったのは、睦子の幸せを壊さないことだ。

睦子に気持ちを平静に保って欲しいということだ。

なのに自分は、今、ブログに自分の気持ちを書くことで、睦子を悲しませようとしているのか。


自分の考えたことを、できるだけ正直に、もちろん少しは見栄を張ってでも、書くことが、誰かの力になって欲しいと思っている。

夫婦は、あの世でも夫婦になれるという考えは、なんか自分には甘すぎる気がする。

これを認めることは、自分に正直ではない気がする。

でも、今、目の前で、睦子は、それが違うという。

違うと信じたいという。


睦子の言い方は、強い口調ではない。

むしろ、お願いするような、少し寂しいともいえる言い方だ。

元は思う。口には出せないけれども。

『その気持ちも判るけれども、なんだか矛盾が多すぎる。』
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