教会
フォルは小さく笑うと、エルダを振り返った。妙に固まった、不自然な笑顔である。
「じゃ、そろそろホドとヴァルを起してね。早くしないと、寝起きの不機嫌が子供達に当たるかもしれないからねぇ」
彼の口から紡がれた二人のシスターの名に、今度はエルダが固まった。嫌だと言わんばかりの表情が、ぴたりと張り付いている。
二人の寝起きの悪さを知っているからこそ、そんな表情が浮かぶのだ。
昨日は起きてすぐに殴られ、一昨日は蹴られた覚えさえある。本人達は自覚が無いらしく、更に厄介なのだ。
「たまにはフォル自ら行ったらどうでしょー?」
「あ、ごめん。来客みたいだねぇ、こんな朝早くから」
エルダの提案に、フォルは外を指差しながら答える。
そこには二頭立ての馬車が、ゆっくりと進んでくるのが見えた。装飾を施された馬車は、霧の中に浮かぶ幻影のように美しかった。
エルダは予定に無いはずなのにとつぶやきながら二人を起しに上階へ、フォルはクスッと笑いながら接待のために下階へ降りていった。
