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入り口の扉を開けると店内に響き渡る、
リィンリン──
というウィンドベルの涼やかな音。
その余韻の尻尾を引き継ぐようにして店の奥から、
「いらっしゃいませ~。ってあら、美織ちゃん」
腰まである綺麗な黒髪をふうわりと揺らしながら微笑む女性。
「こんにちはー」
「うふふ。いつもありがとう。今帰り?」
そういって黒縁めがねの奥の瞳をやさしく細めるこの人は、ここ『トリニティ』の店主こと伊藤八重(いとうやえ)さん。
クリームカラーの店内にぴったりの雰囲気をまとった女性で、わたしがここに通う理由のひとつでもある。
「今日は? ここでお茶して帰る?」
「あ、いえ。買うだけで」
「あらそう。いい葉っぱが手にはいったのに。残念」
ここ『トリニティ』は八重さん手作りの様々なお菓子が売られていて、店内にはちょっとした喫茶コーナーもある。
調度品をクリームカラーで統一された店内は木造で。
1歩足を踏み出す度にコッコッ、というやさしい音が足元から響く。
メルヘンチックとまではいかないけれど、かわいい雰囲気。
とてもナチュラルな空間といえばいいかな。
それが店主である八重さんととてもよく調和しているような気がする。
前に、
「本当に、八重さんのために作られたお店って感じがします」
といったところ、
「ふふっ。実はね、このお店は主人が設計したのよ」
そう、とても嬉しそうに話してくれたっけ。
ただ、旦那さんは建築家をしているらしいんだけど、実は今まで逢ったことがない。
それというのも旦那さん、かなりアクティヴな人で。
インスピレーションを得るためにとかなんとかでよく家を空けてどこかにいってしまうのだそうな。
それを聞いて、
「さみしくないんですか?」
と八重さんに問いかけたこともあったけれど、
「そういう人だから、ね」
さらっというところに、なんだかとても深い愛情を感じたり。
ん~。
わたしにはまだまだ理解出来ないけど。