オレンジ



戻って来た彼は、

なぜか困った顔をしていた。



「どうしたんですか?」 


すると、
後ろ手に持っていた缶を差し出しながら


『なに飲みたいか、
聞くの忘れた…』



彼の手元を見ると、

どちらも同じオレンジジュースだった。



「クスクス、じゃあ…
コッチのオレンジ。」


少しおどけて受け取ると、
彼は笑いながら隣に腰掛けた。





冷たいオレンジを飲みながら空を見上げた。





「落ちてきそう…」





『えっ?何が?』




「空…


雲がひとつもなくて、


あまりにも青いから…


なんとなく……

空が落ちてきて、

この青に、

全部飲み込まれる…って、
なに言ってるんだろう。


ごめんなさい

可笑しな事言って…」






『可笑しくないよ。』






しばらく空を見ていたら、
彼がコッチを見ていた。




「ん?」



『いや…、俺の名前。

どうして覚えててくれたのかなぁーって…

俺は暫くの間、
母親から美雨さんの事
聞かされたからだけど…』



「イイ名前だなって思ったんです。

光(ヒカル)って…


えっ?聞かされた?」



『俺はキレイだと思った。
美しい雨で、

美雨(ミウ)って。

優しい人に会った!って、
美雨さんの話しばっかだった。』




「なんだか照れますね」









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