新しい歌

 彼女が創った詩の中にあった言葉が、私の目に飛び込んで来た。

 彼女の指が私の指を掴んで離さない。

 振り解けなかった。

 はぁあ、と大きく溜め息をつく彼女。

 見えない筈の眼が、じっと私に向けられたままだ。

「ようすけ、ちゃんと答えなさい。うら若き乙女が勇気を振り絞って聞いてんだからぁ」

 彼女のおどけた口調に幾らか助けられた。

「オッサンだから、こういう質問は上手く答えられないよ。それよりも、年上をつかまえて、ようすけって呼び捨てにしやがって、こいつ」

 私は彼女の頭を軽く小突いた。

「いいじゃん。ぼく、これからようすけって呼ぶ事に決めたんだもん。だから、ようすけも、ぼくの事をちゃんなんてつけないで。レイって呼ばなきゃ駄目。それよかさ、なっちゃんとキスした時、どんな味がしたの?ねえ、教えてよぉ」

「那津子に聞いた方がいいぞ。俺は、忘れた」

「忘れちゃう位してないの?」

「お前なあ」

「お前じゃない。レイってちゃんと呼べ」

「判った、判った。さあ、もう寝るぞ」

「ようすけって、シャイだよね」

「大人をからかうと、ろくな目に遭わないぞ」

「いーだ。ぼく、寝る。ようすけ、手伝って」

 パソコンを除けて彼女の身体を横にさせた。その時、ふと目に入ったのは、ベッドの横に据え付けられた排泄用の容器だった。

 私は見ては行けないものを見てしまった心持ちになり、急いで部屋を出ようとした。

「ようすけ……」

「まだ何か手伝う事があるか?」

「……」

「どうした?」

「いい、何でもない」

 彼女は毛布を顔まで引き上げ、くぐもった声でおやすみと言った。


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