いつわり彼氏は最強ヤンキー[完]

突然の解放

どれくらい経ったか―――…

とても長い時間のように思えたけど、時計を見るとそれほどでもなかった。

あんなに長く感じたのに……。

まだあんまり動く気にもなれないけど、いつまでもここでグスグスと泣いてる場合じゃない。


久世玲人にも、すぐ戻ると言ったきりだ。

溢れ出そうになる涙を無理やり止め、頼まれていたジュースを届けに行った。

カフェは相変わらず盛況で、戻りが遅いことも誰も気にとめた様子はなかった。それに、私を見ても何の反応も見せなかったので、泣いたことはバレていないと思う。


……久世玲人の前でも、さっきと同じように振舞えるはず。

慌しそうなカフェをあとにし、久世玲人が待っている教室まで足早に向かった。


まだ、待ってくれているだろうか…。

少しだけ不安に思いながらドアをそっと開けると、窓際の席で、ポケットに手を突っ込み足を投げ出して座っている久世玲人の姿が見えた。

その姿にホッとした安堵感が広がると同時に、胸が締め付けられる。


「……久世、君…」

無意識に、声が零れた。

教室に入ると、久世玲人はゆっくりと顔を上げこちらに視線を向けた。

真っ直ぐに向けてくるその表情はいつも以上に鋭く、射るような視線は息が止まりそうになるほど。

もしかしたら、待たせてしまって機嫌が悪いのかもしれない。それでも今は、こうして同じ空間にいれることに、ひどく安心する。


ゆっくりと近付くと、久世玲人は私を鋭く見据えながら静かに口を開いた。


「……何してた」



え……?


思わず足が止まった。

まるで、何か勘付いているような、低くて硬い声。


「誰と、何してた」

「え…」

「答えろ」


どうしてこんな……?まさか知って…、いや、まさか、それはあり得ない…。

もしかしたら、泣いていたことがバレたの…?涙の跡が残ってた…?

それとも、戻るのが遅かったから、ただ本当に怒っているだけ…?


どちらにせよ、いつもとは様子が違う久世玲人に少し戸惑いながら、その目を見つめ返した。

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