大好き‥だよ。

距離

プールの後の4時間目の国語の時間は、授業に身が入らない。全身が疲れている上、追い討ちをかけるように空腹で頭が回らない。これ程辛い時間はないと思う。そして今日は、よりによって古文の時間だった。テープから聞こえてくる声は、全てがお経に聞こえてくる。眠いな‥

一番前の席で寝たら、先生の持っている物差しの射程内に入ってしまう。物差しは、相手が女だろうと容赦なく向かってくる。それだけは避けたかった。

右手にペンを持ち、回しながら必死で寝ない方法を考えた。


全開に開いていた窓からは、心地よい風が流れてきた。惹き付けられる様に窓の方をぼんやり見た。

これといって興味を持つようなものはなかった。窓から見える景色には、去年皆で種を蒔いたひまわりが、元気良く伸び伸びと育っていて、それから畑には雑草が生き生きと‥‥

その時、何となく惹かれた理由が分かった気がした。今の私に足りないものが、この景色には沢山あったからだ。

自分に欠けているものを他人が持っていると羨ましく思う。時にはそれが欲しくなる。今の私に足りないものは、何を言われてもめげずに立ち向かっていく勇気だと思った。


その答えに辿り着いたとき、左後ろから視線を感じた。視野が人より広い方なので、誰がこっちを見ているのか直に分かった。この視線は‥俊チャンだった。

一瞬ドキッとした。

「もしかして私を?」なんて勘違いまでしそうになった。でも、頭を左右に振って正気を取り戻した。今は授業中なんだから、私を見ているんじゃなくて黒板を見ているんだよって。


突然頭を振り出したので、隣に座っていた小林君が「大丈夫」と何度も心配してくれた。私は「平気だよ、耳にプールの水が入ってて‥」と言ってその場を凌いだ。
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