光~夢見るホタル~
「どうしたら、そんなにうまく投げられるんだろう」
「教えてやろうか?」
ホタルは目を丸くして、口を押さえた。
 心の中で呟いたつもりなのに、声に出てしまったようだ。
 そんなホタルを、デイブは投げ位置まで引っ張っていくと、手にボールを持たせた。
「お前、届いてもねぇからなぁ。…真っ直ぐ投げろ。遠くに投げようとして、上の方に向かって投げてるからな。後は、体力の問題だから、練習すれば大丈夫」
「わかった…」
「集中。的をじっくり狙えよ」
「うん…」
集中。集中。
 ホタルは自分に言い聞かせた。
 1点だけ見つめる。真っ直ぐ、前に。腕を振り上げて、思いっきり。腕をバネのように。前に。
 カンッ。
 息が切れる。ホタルの息づかいが、響く。
 カラン。
 空き缶が1本、地面に落ちている。
「やったじゃん!」
「やった…。倒した!私が!」
ホタルは両手を挙げて喜んだ。飛び跳ねて、大きな声で叫んだ。
 デイブも、他の仲間達もホタルの周りに集まり、心から喜んでくれる。
 今にでも、胴上げをしそうなぐらい。
 が、やはり夢は夢のままだった。
 夢は覚めるもの。幻影は消えるもの。
 ホタルは、現実に戻されてしまう。
「ゲホッゲホッ」
ホタルの体は、健康ではない。忘れたかった、現実。
 歓喜溢れていた空気が、一気に心配に変わった。
 そんな視線に、ホタルは顔をあげ、咳をおさえて、笑った。
「大丈夫。ちょっと、ふざけすぎただけだよ。ごめん、もう家に帰らないと」
ホタルは、後ろ髪引かれる思いで、その場を立ち去った。
 こんなとこ、来るんじゃなかった。
 夢を現実にしちゃいけなかった。
 覚めない夢なんて、最初からないとわかっていたのに。
 夢を見なければ、がっかりせずにすむのに。
 それでも、ホタルは夢を見続ける。
 ほんの一瞬でも、叶った瞬間。こんなにも嬉しくて、幸せで、何もかも輝いて見える。
 彼女は夢を見ることが、明日を生きるための光なのだから。
「なあ、明日も遊ぼうぜ!」
「うん」
「絶対にな」
それは、守れない約束。
 それは、ホタルを幸せにする約束。
 ホタルは、夢を見ながら現実に帰る。
 いつか、夢が覚めることのない、現実になるのを夢見ながら。

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