魔王家
―梅雨に入る少し前―

今日は学校が休みの日。
魔王は城でゆっくりと過ごしていた。

「魔王様、今日は少し台詞の練習をいたしましょう」

メイヤがアーサンを連れて魔王の部屋へやって来て、おもむろに一冊の台本を渡してきた。

「何の台詞なのじゃ?」

「勇者と対峙した時に勇者に対して言う台詞です」

台本には『勇者と対峙した時に使う台詞の例題』という表題が書いてある。

それを使ってメイヤは練習をやろうと言っているのだ。

「そんなものもえの好きに言わせればよかろうに」

確かに魔王の言う通りで台本に書いてあるものは歴代の魔王の吐いた名台詞ではあるが、それはあくまで例題であり練習するまでもなく知っておく程度でいいものだ。

「アイドルになるなら演技や台詞合わせは必須事項ですよ」

「はっ!迂濶じゃった」

魔王は痛い所を突かれた。
アイドルになるために必要なことなら喜んでやれた。

メイヤの口車にまんまと乗せられる魔王。

「そんな台詞一回読めば覚えられる」

魔王は強気でやる気満々だった。

「僕ももえちゃんがアイドルになる為に必要なら協力するよ」

魔王教育係としての意志が感じられない発言しか出来ないアーサンだった。




修得:自信
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