魔王家
―食べ物が美味しい季節―

魔王はおやつにせんべいを食べながらメイヤにある質問をした。

「もえは魔王じゃよな?勇者に倒されるのが仕事じゃよな?どうせ倒される存在なのになぜ人々は『魔王』というものにいちいち恐怖し絶望するのじゃ?」

魔王がそんな質問をするのはもっともだった。

むしろ、今さらである。

魔王の仕事は『勇者に倒される』が大前提で、ダンジョンを作ったり魔族を統率する他はふんぞり返って『存在』することしかしていない。

「それも説明しないといけませんね」

メイヤは内心、ヤバいと思っていた。

正直、メイヤ自身もそう聞かれて何故なのか分からないのに説明すると言ってしまったのだ。

教育係として魔王に聞かれたことに対し、分かりません、と言えないメイヤの小さなプライド。

澄ました顔でどうやって説明しようか考えていた。

「どうした、メイヤ。早く説明せぬか」

魔王に急かされ、澄ました顔から冷や汗が流れてきたメイヤ。

その時だった。

「うわっ!メイヤ、あ、あれを何とかしてくれ」

魔王が指を差す部屋の角にはゴキブリがいた。

天下の魔王がゴキブリ一匹にビビりまくる不思議な光景。

メイヤはこれを利用しようと思いながら、とりあえずゴキブリを亡き者にした。
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