幾千の時を超えて
「沙耶ちゃん、少し休んだら? 後は、おばちゃんたちがやっておくから」

「……いえ、大丈夫です。ご心配ありがとうございます」

手伝いに来てくれた同じアパートの住人が、心配そうに声をかけてくる。


それも当然だ。

母1人子1人の母子家庭で母親が死んだら、普通、通夜・葬儀にまつわる細々とした雑務を5歳児の私ができるはずがない。

普通の子供なら何が起こったかわからず、部屋の隅で母親がいないのを不思議そうな眼で見ているくらいだろう。

私をそこらへんの子供と一緒にされては困るのだが……。


一応、簡易的な通夜と葬式らしきものを、市の職員が葬儀屋に頼んでくれているから楽なものだ。

(生活保護を受けていた我が家には大層な葬式をあげる財力はない)

私は、葬儀屋からの質問に答えるだけでいい。

後は葬儀屋と親切な隣人たちがやってくれる。

訪れる弔問客も、気の知れた同じアパートの住人や、母親の職場の同僚くらいだから少なくて楽だ。

彼女は実家とは縁を切っていたので、小うるさい親戚どもが湧いてくることもない。

一応彼女が危篤に差し掛かった時に、実家の連絡先を探し出して電話をかけたが、門前払いだった。

まあ、妊娠したというだけで勘当するような家では、押しかけられても迷惑なだけだから助かったが。



しかし、父親の連絡先が全くないというのも、彼女らしく徹底していた。

どうやら不倫の上でできた子らしいので、向こうの家庭のことを考えてのことらしい。

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