深海から見える灯【完全版】

16歳

「はぁ・・・」

あたしは部室の前でため息をついた。
中からはギャハハと数人の笑い声が聞こえる。

(やっぱ後にしよう・・・)

あたしは部室に背中を向けて歩き出そうとした。その時

「うららちゃーん!部活慣れたー?」

中学の頃の1コ上の先輩がテニスラケットを振り回しながら言った。

「ありがとうございまーす!まだまだ慣れないです」

あたしが答えると先輩は笑顔になった。遠くから見てもものすごい美人だ。
また歩き出そうとしたら、今度は後ろのドアが勢いよく開いた。

(見つかったか・・・)

「うららちゃん、待ってたんだからなー」

3年の先輩が超スマイルで言った。

(待ってたのはお前じゃないだろう)

とツッコミを入れたくなったが笑顔で「お疲れ様です」と言った。

「待ってたのはオレじゃないけどね」

先輩は笑いながら「どうぞ」と部室の中へ入れてくれた。

「失礼しまーす。ボールの在庫チェックしますね」

喫煙所と化してる部室に入ってあたしはその人物には一瞥もくれずにボールの棚を見た。

「おい、マネ」

その人物は言った。無視無視。あたしは「マネ」って名前じゃないし。

「1年1組のバスケ部マネージャー」

聞こえるようにため息をついてあたしは振り返った。

「何ですか?3年何組だか知らないけどサッカー部の先輩」

その人物・・・先輩は身体は小柄なのに態度だけはデカイ。

「オレが待っててシカトこくなよ。今日こそ返事聞かせろ」

「返事?」

あたしはボールの数を記入してから言った。

「とっくに言ったじゃないですか。無理です、ごめんなさい、すいませんって」

「何でオレと付き合えねーんだよ」

(ウザ!今度はスネてるし)

「どう考えても気が合わないって思うからですよ」

あたしにしてはこの人に優しく言ったな、と我ながら思った。

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