地味子の秘密*番外編*
高3の5月―――

ゴールデンウィーク明けに、零のじいさんである朝比奈理事長から、編入生が来ることを伝えられた。

当時、生徒会長をしていた俺は、

『なんでまたこんな中途半端な時期に。めんどくせー』

とは思いつつも、世話になっている理事長の頼みで、編入初日に理事長室まで案内することを引き受けた。


しかし編入生の名前も教えてもらえず、顔写真などが入ったプロフィールもない。

理事長に理由を尋ねると、編入は急きょ決まったものだったので、用意していないのだと言われた。

それにしても、名前くらい教えろよとは思ったんだが。

だが、俺が通うこの東雲学園は、超がつくほどの金持ち学校。

生徒全員が、どこかの御曹司や令嬢だ。

俺も、警視総監を祖父に持つ、代々警察官僚の家系。

名前を知らなくても、どっかの坊ちゃんとかお嬢様とかだろ。

そんな風に考えていた。



そして、迎えた日。

朝早めに登校した俺は、編入生が来ると言われた玄関近くで待っていた。


しかし、そこに現れたのは……ひとりのメガネ女。


長い黒髪をふたつに縛り、メガネをかけている。

あまり、令嬢とかそういう風には見えない。

地味な女だった。

でも、それでも女は女。

女嫌いの俺にとって、理事長室までの案内は最悪。


近くに女がいるというだけで気分が悪くなり、さっさと案内を済ませようと思った。
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