地味子の秘密*番外編*
◆Trick or Treat?
大学1年の秋が舞台です。


―陸side―


日中の気温もだいぶ下がり、そろそろ本格的な秋がやって来そうな、とある平日の午後。


「では、今日はここまで」

チャイムと同時に講義が終了し、教室を出て行く講師。

俺は机の上に広げたテキスト類をまとめ、出していた筆記用具をペンケースの中へと戻した。

今日は金曜日。

特に急ぎの仕事はない……杏と街でブラブラしてから帰るか。

杏だって、『用事はないよ』って言ってたし。

トートの中にテキストをしまい、俺の左側にある通路を挟んだ席にいる彼女を見た。

しかし。


「は? 杏?」


さっきまで。

講義が終了する直前まで、そこにいたのに。

杏は……俺の隣にはいなかった。

たしか今日は……朝比奈と一緒に座っていたと思う。

ふたりでキャッキャと笑いながら、受講していた。

その朝比奈さえもいない。

広い教室内を見渡すが、ふたりの姿はどこにもなかった。

服のポケットから携帯を取り出し、杏の電話番号を探す。

発信ボタンを押して耳にあてるが―――。

『お客様のおかけになった電話番号は現在電話の届かない場所に―――……』

女のアナウンスが流れるのみだった。

どこに行った?

携帯を耳から離し、教室内を再度見渡しながら考える。

その時に、教室内には……女がいないことに気が付いた。

< 280 / 381 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop