辛いくらいに君が好き
序章


時計の針が12時を回った頃―

  
時計の針のチクタクと動く音以外、今のあたしの耳には何も聞こえてこない。
朝昼は騒がしいマンションも、静かに眠りにつこうとしている―



「……拓馬………」



静まり返った真っ暗な部屋の中で、ベッドの隅に座りある人の名前を呟いた。
その名前の人物は、あたしが今まで生きてきて誰よりも愛した人の名前…
これから先も、きっと忘れることの無い名前…


灯りひとつ無い真っ暗な部屋。

手探りで引き出しからキャンドルを出し、机に乱暴に置いたマッチを手に取りキャンドルに火をつけると、ほんのり温かい灯りがあたしの心を少しだけ暖めてくれた気がした。



「拓馬……会いたい…会いたいよ…」



今にも涙が溢れそうなのを堪えてバッグから鍵のついたノートを取り出し、ギュッとノートを抱きしめた。

なんとも言えない想いが溢れ出すと同時に、あたしの目からは幾つもの涙が零れた。

  

―ダメ…会いたい、なんて思っちゃいけない…
想い出さえ持つことも許されないのに…それ以上を、望んではいけないの…!




心の中で自分にそう言い聞かせて、溢れ出る涙を乱暴に拭い、立ち上がった。




< 1 / 11 >

この作品をシェア

pagetop