辛いくらいに君が好き


―これは、バイトのお給料となけなしのお小遣いを貯めて大阪に、拓馬に、会いに行ったときの写真…

―これは、春にお花見に行ったとき―これは、梅雨に紫陽花を見に行ったとき―これは、夏に海に行ったとき―これは、紅葉を見に行ったとき―これは、冬にイルミネーションをバックにして撮ったとき―


一枚一枚、写真を手に取るたびに想い出が頭の中で再生される。
そのときだけ、想い出に浸ることが許される気がした。


「……拓馬…拓馬……拓馬…」


拓馬の名前を呟くと我慢していた涙が雨のように溢れ出た。化粧が落ちるなんて気にしなかった。
もう拓馬を想うことさえ許されない…早瀬 拓馬…その人物を忘れなければいけない…
そう思うと、胸が苦しくて消えてしまいそうだった…いっそのこと、消えてしまいたい。


次々に写真を焼却炉に入れていく――相変わらず、涙は止まらない。止まることを知らないみたいだ。


「……拓馬…っ…」


まだ、まだ、写真はたくさん残ってる。


拓馬を忘れたくなくて…写真を燃やすことを拒んでいた手を再び動かした。



そっと瞳を閉じた。


忘れると、行き場の無い想いに終止符を打つと、そう決めたのに…
たくさん泣いて、心身ともに傷ついてるはずなのに…



瞳を閉じれば、そっとあたしに笑いかけてくれる、彼がいた―


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