おちます、あなたに


 濃紺のがら無しの折り畳み傘を手に取り。
さぁ帰ろう、とした時だった。

「うぇー、雨降り過ぎ〜」

 間違えるはずが無い。
私はアンテナを立てたように、ひたすらその声の出所を見つけようとする。

「……将樹先輩?」

「あっ、悠ちゃん」

 三年側の扉から、出てくる先輩。無意識に呼んでしまった。

 先輩は、私が手に持つ濃紺を見て、水をやった花のごとく笑顔になった。


とくん、
心臓が、跳ねた。
次の言葉が予想出来て、また跳ねた。


「悠ちゃん! 傘に入れてくれると助かるんだけど〜」

 断れるはずがない。
けれど私の心臓がもつはずもなくて。
そんななか、口から出たのは。

「いいですよ、風邪引いちゃいますもんね」

 肯定の返事だった。


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