鏡の彼
第十話 言い伝え
――鏡の中。

 そこは、私が思い描いた世界とは別物だった。角度によって光る七色の結晶。それがいくつもあって私の姿を映している。ふわふわと浮かぶ感じで、地面はない。私の部屋が見える場所だけが、窓みたいにある。

 私は、はっとした。自分がこの世界に来るなんて思わなかった。ただ、あいつを殴りたい一心で、最初は訳が分からず頭の中は混迷していた。


「……私、どうしたの?」
 そっとあいつに、彼に聞いた。彼は鏡の中の住人。きっと何か知っているはずだ。


「どうしたも、こうしたもって、お前までこっちに来たんだよ……」
 彼は、困惑しつつも答えてくれた。殴りたいという思いはいつの間にか消化されてしまっている。


「まぶしい……」
 慣れないからか、光が反射して目がちらちらする。


「どうすんだ、これから?」
「うーん……。どうするって言っても帰らないと……」
「――帰る方法なら、あるぜ。だけど……」
 彼の話も途中のまま、私は詰め寄っていた。


「本当!?」
「ああ。でも、その前にお前には真実を告げなくちゃならねえんだ……」
「真実……?」
 こくりと、彼は真剣に頷いていた。
「見ろよ……」

 彼が指さした先、一欠けらの結晶が情景を映しだしていた。


「鏡は真実を映す。だけどよ、正反対でもある……」
「え……!?」

 結晶に顔を近づけた。そこには、ある一室。白衣の人々が多く行き交う病院の中であった。
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