乾柴烈火 Volatile affections
目の前の光景に

少なからずショックを受けた私は、

ゴーストタウン化した

その景色を眺めながら立ちつくした。

つい先日まではここにあった筈の、

人々のざわめき

話し声

足音

そんな活気の源となるような情景を、

残像して思い出す事は容易だった。

それでも

目の前の光景は何一つ変わることなく、

現実として容赦なく

目に映るだけの事だった。



もう本当にたった一人だという事

そして今の私がしている事を、

怖いと認めざるをえなかった。

それと同時に、

そう感じることを許す訳にはいかないこと、

引き返すという選択肢など

私はとっくに捨ててきたはずだということ、

このまま立ちすくんでいても

状況は何一つとして変わらない事、

誰かが、

もしくは神様が

私を助け出してくれるわけではないことを、

強く私に言い聞かせた。



『最初の一歩が踏み出せなければスタートラインに立つ資格はない。そこまで自力で歩いていかなければ何も始まらない。』

それは誰かの受け売りではなかった。

これは私が知っている事実で、

その事をカラダで立証してきたのは

他ならない私だった。

誰もいない香港を歩く

それは滅多にない機会だから

目に焼き付けておこうと思いながら、

怯えている私を振り切るかのように、

或いは道を歩いている他の誰かに

救いを求めるかのように

香港のメインロードである

ネイザンロードへ向かって

私は歩き出した。

私の3回目の香港は、

こうやってスタートを切った。



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