モノクロォムの硝子鳥

何より一番衝撃だったのは、自分の存在意義が「遺産目的」だという事。
こうして生かされ今まで生活してこれたのは、全ては莫大な遺産を手に入れる為。

義永の話を全て信じた訳じゃない。
そうじゃ無いけれど――。

もしも、遺産というものが自分には全く関係無かったら?
その先を考えるのが怖くてひゆはギュッと瞼を閉ざす。

自分の身体が震えているのも分からないくらい、頭がグラグラして痛い。

こんな痛みは知らない。
――知りたく、無かった……。


「問題はまだまだ山積みだが、一先ずは君の身柄を保護するのが第一だった。それは分かって欲しい」


幾分、穏やかな口調で言われたが、ひゆは顔を上げる事無く身体を震わせていた。

今直ぐに、感情を捨ててしまえたらどんなに楽か。
自分の胸を苛むのは、辛さからか悲しみからなのか。
何が作用しているのかも分からない。


「……私を、保護してくれるのは」

「……?」

「……義永さんも、お金が欲しいからですか?」


感情の無い虚ろな目を上げて、ひゆは義永に問う。
自分でも、どうしてそんな事を聞いたのか分からなかった。

聞いた後で義永にそうだと言われたら……自分はまた胸を痛めるのだろうか。


「――そうじゃない。と言えば、君は安心するのか?」


肯定でも否定でも無い答えに、ひゆは少し驚いた。


「……いえ。でも、分かりません……」

「私のしている事はあくまで仕事だ。それ以上も、それ以下も無い。今与えられているのは君を保護し、相続問題にカタを付ける事――それが私の仕事だ」


言い終えると、義永は腰を上げて部屋を出て行こうとする。
ドアの前で立ち止まると、テーブルに視線を落したままじっと固まっているひゆを振り返る。


「君の居場所は此処しか無い。それだけは忘れないように」


義永の声が遠くで響く。
自分の存在も、居場所も――何もかもが消えてしまうような重い闇が、ひゆに重く圧し掛かっていた。

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