モノクロォムの硝子鳥

いつの間にか、学校の生徒達が野次馬と化して周囲を取り巻いていた。

さざ波のように次第に大きくなる喧騒の中心に居るのが居心地悪い。
ひゆは眉を顰めると、警戒心を纏って目の前の男を見上げる。


「……蓮水は私ですが、何かご用ですか?」


やや硬い声音で静かに問う。
緊張のせいで語尾が少し掠れてしまった。

周囲のざわめきで掻き消されそうな程に弱いひゆの言葉を、黒服の男は正確に聞き取り「申し訳ございません」と丁寧な口調で言葉を返した。


「蓮水様のご都合もお伺いせず、突然学校まで押し掛けてしまい申し訳ありませんでした。本家の御当主より蓮水様を御屋敷へお連れするよう言付かり、此方へ伺わせて頂きました」


男の艶のある声がするりとひゆの耳に流れ込む。


「…ご、当主…? お屋敷……?」

「はい」


聞き慣れない言葉に、困惑の色は更に深まる。
無意識に逃げようと、ひゆは後方に足を引いた。

けれど、男はひゆの動きにに沿うように半歩足を進めてくると、雨に濡れて冷たくなったひゆの白い右手を取り柔らかく包み込んだ。


「……っ…」


優しい所作で手を取られ、意識がそちらへと傾く。

品のある形の良いその手は、冷たいひゆの手に温もりを分けるように、そっと力が込められた。


「此処では些か目立ちますので、どうぞお車へ。詳しい話は、後ほどお話致します。」

「あ、あの!」


少し離れた場所に止めてある黒塗りの高級車へと促す男に、慌てて制止の言葉を投げる。
掴まれていた手を振り切り、差し出されていた傘から出て男との距離を取った。

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