non title
「めぼしい物件、挙げてみた」
「…本当に?」
自分の声が思っていたより低くて驚いた。
この資料に向けて言ったのではない。資料を用意したユウに、その真意を問いたかった。
本当に同棲するつもりなの?
「昨日、社長に会って話してきたんだ」
「…なんて?」
「同棲、オッケーだってさ」
なんで、どうして。
ユウの事務所の社長の顔は、一度だけ見たことがある。綺麗で、聡明で、かっこいい仕事の出来る女がドラマか何かからそのまま出てきたみたいな女性だった。
あの社長が、首を縦に振ったんだ。
信じられない。どうかしてる。
「来週の水曜、実際に部屋を見に行けたらなーって」
「引っ越すの?」
「今の部屋じゃ二人で住むには狭いじゃん」
とうとう現実味が増してきた。
相手は売れっ子の芸能人。
外じゃいつだって人目や週刊誌やらの記者に気を付けて変装しているような男と。
こんなの、
「うまく行きっこないよ」
ハルナのその言葉に、ユウはなぜかまたいつもの笑顔。
「うまく行くよ」
根拠はないけど、とユウは付け足す。
ユウがそう言うのなら、ハルナは何も言わずに従うよ。従うというより、ユウが作る流れに身を任せるよ。
「…学校近い方が良い。コンビニも近くて、スーパーも近くて…お風呂が広くて、日当たりの良いとこじゃないとやだ」
ユウの心地よい相槌が聞こえてくる。
ハルナは残りのオムライスを口に運んで、これからの事を少しだけ考えた。