ウォーターマン
 第一段階クリアーの朗報(ろうほう)が、宰政官邸に届いた。重圧の虜(とりこ)になってていた政府首脳達は、この第一報に、蘇生(そせい)していく。激情家の三浦情報長官などは、涙(るい)眼(がん)になっていた。
「まずはよかった」
 閣僚達は、互いに祝慶(しゅくけい)しあったのだった。
(中国は果たしてどうでるか)
 白々と明けゆく暁天(ぎょうてん)に、久坂達は邦家(ほうか)の命運を重ねようとしている。

 日本軍奇襲の急報に、金正大はいきり立っていた。金は直ちに中国主席王星明に、ホットラインで援軍を請うた。
「日帝を、再び倒すべき秋(とき)が来た」
 金の激烈な日本打倒声明は、忽(たちま)ち地球を駆け巡っていった。

 磨生も即応するように、全世界に向けて、以下の様な声名を発信した。
「我が国は今日午前四時、北朝鮮に拉致されている日本国民を救出する為、北朝鮮国内にて行動を開始した。我が国は北朝鮮に日本人を返すよう要求し続けてきたが、北朝鮮政府は、拉致問題は解決済みとし、話は平行線を辿るばかりであった。既に日本人拉致から数十年が過ぎ、拉致された日本人は、皆五十代以上に達している。我が国独自の調査でも、生存者は十一名しか確認できなかった。後の方々は死亡、行方不明としか判明していない。十一名全員が帰国を熱望しており、我が国としては、同胞の生命を救うべく、起ち上がるほかはなかった。我が国は決して北朝鮮などに領土的野心はなく、ただ自国民を救出することのみを、目的としているのである」
 北朝鮮の友邦(ゆうほう)中国は、磨生の告(こく)文(ぶん)に即座に対応せず、静寂(せいじゃく)を保っている。
(果たして中国は、どうでてくるか)
 人類の耳目(じもく)は、十三億の人口を抱える独裁大国の動向に釘付けとなっていた。
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