上司に恋しちゃいました
「待ってください。もうちょっとだけ待ってください。

中途半端は嫌なんです」


「でも……」


「宮沢さんのことはあたしが明日何とかします。だから……」


鬼の王子は黙ってあたしを見つめると、観念したかのようにため息を吐いた。


「美月はやっぱり真面目だな」と笑って、あたしの頭をポンポンと撫でた。


……違う。


仕事を途中で放り出すのが嫌なんじゃない。


辞めるのが……嫌なの。


自分の本当の気持ちに気付くと、心がスッと軽くなった。


けれどそのことは、鬼の王子には言えなかった。


大好きな彼の笑顔を濁すことになる、そんな予感がした。

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