【短編集】フルーツ★バスケット

「どうして、廉くんが?」

 さっきまで、あたし達を奮い起たせてくれたボーカリストが、今、目の前にいる。

 しかも、仁王立ちだし。


「レン、女の子を恐がらせたらダメだよ。
 君、立てる?
 具合悪いなら、裏で休むといいよ?」

 あ、蒼くんまで。

 えっと、夢……ですか?

 バチンッ!!

 ……痛い。

 夢なら、おもいっきり叩いてしまえ、と両手で自分の頬を叩いたのが間違いだった。


「お前、バカか?」

 うぅ。
 そんな、呆れたように言わないでよ。

 歌っている姿は、カッコ良くてキュン、としていたのに。

 GRAPEなんか、
 廉くんなんか、


「嫌いになってやる」

「はぁ!?
 演奏をまともに聞けない奴なんざに言われたかねぇよ!!」

 そういえば、あたし、今日の歌、ほとんど覚えていないかも。


「落ち着けって。
 何か事情があったんだろうよ」

 あたしのマヌケな態度?
 に腹を起て、更にヒステリックになった廉くんを蒼くんがなだめている。


「オレらの演奏なんて、聴くまでもなく、腕が立つってことか」

「え、えっと……」

 ぐ、郡司くん!!

 三人目のメンバーが登場し、完全にあたしはパニック状態に陥ってしまった。


「聞かせてくれねぇかな。
 アンタの音楽センスを。
 オレらを黙らせたら、アンタの勝ち。
 もう何も言わねぇよ」

「ち、違うんです。
 あたし、GRAPEが大好きで、今日は一緒に踊りたかったんだけど……」

「だけど、退屈だったていうのか?」

 その後の言葉が出て来なかった。

 だって、最前列に居たのに、耳塞いでたんだから。

 我ながらの行為に自己嫌悪に陥った。

 あたしは、唯黙って横に首を振ることしか、出来なかった。



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