【短編集】フルーツ★バスケット

「此処は……」

 何処をどう歩いて来たのか分からない。

 気が付いたら、目の前に石造りのステージが広がっていた。

 また、此処に来ちゃったんだね。

 違う事と言えば……。

 誰もいない。
 ライトも消えてる。

 何のイベントもないこの場所は、公園にしか見えないね。

 帰る事も、戻る事も出来ず、ホントあたしは──。


「中途半端な奴だなぁ」

「えっ!?」

 どうして?

 居る筈もない、あたしを一番煙たがってた彼が目の前に立っている。

 怒ったように。
 困ったように。


「帰るって言ったくせに。
 こんなところで油打ってる暇はねぇんだ。
 帰るぞ」

「あたし、迷惑かけたくないよ」

「だったら、尚更来やがれ」

「でも……」

「さっきは、悪かったな」

 ううん。
 悪いのは、あたし。

 ちょっと声掛けられただけで、有頂天になっていたんだから。

 大して演奏も出来ないのに、逃げ出しちゃったのも、あたし。


「ごめんなさい」

「素直だな。
 帰ろうぜ」

「うん」

 あたしを、認めてくれるの?

 それとも、義理かな。

 今はどっちでもいい気がする。

 廉くんは、言葉は短く、顔も怒っているようでちょっぴり怖いけど、誰よりも音楽を愛しているんだね。

 心配なんか全くしてない、って言ってるけど、繋がれた手の温もりは優しいよ。



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