【短編集】フルーツ★バスケット

一粒の元気


「そこにいるのは、誰?」

──ヤバッ!!

すっかり弾きいってしまっていた。


「あの、ごめんなさい!!」

「あら、藤木さんじゃない。

 何年ぶりかしら?」

「矢井田先生?」

歳を重ねてはいるけど、変わらない面影に、あたしも当時担任をしてくれた先生を、瞬時に思い出した。

数年前、まだ生徒たちになめられていた矢井田先生も、今じゃベテラン先生にまでになっているらしい。


「何か、悲しい事でもあった?」

「えっ!?」

「オルガンの音色、寂しそうだったから」

そういえば、音大出たって言ってたっけ?

「いいわ。
 何も言わなくて。

 その代わり、今の正直な気持ちで弾いてみて」

「先生……」

あたしは、鍵盤に視線をもう一度移し、有りの侭の気持ちを奏でた。



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