同じ空の下で
僕は言われた通り、彼女たちの記憶の札を引き出した。誰からでもいい、と言われたけれど心情的なものか、僕は真鈴の記憶から手をつけることにした。
ただ、真鈴の場合は他の連中とは異なり、僕を捕える為だけに生まれたからその記憶の全てを抹消しなければならない。僕は真鈴の札を手に取りながら、二人でここまでやって来た道のりを思った。
真鈴。次生まれてくる時には自分の意思を持って生まれてくるんだよ。
僕が引き抜いた札を、猫が空中に用意した大きな穴へと放り込む。これなら記憶は交換することなく、いくらでも引き出せるらしい。
「可哀相な子よね、真鈴ちゃん。私も、そんな風に生まれて来たなんて知らなかった」
僕は頷き、尋ねた。
「この後、真鈴はどうなるの?」
「判らないけれど……任務は遂行したんだし、時間が動き出すと同時に消えるのかもね」
「そうか……」
『谷口祐希と出会う』どうせ何もかも消えてしまうんなら、記憶のひとつぐらい残したっていいだろう。そう思い、僕はその札を残した。猫も何も言わなかった。
そうして一人ずつ、記憶を整理していった。特殊な能力を持ち始めるキッカケ。連中にはそれぞれの理由があった。
僕のキッカケは父と母の死。それを信じられない、もしくは信じたくなかったから記憶を動かそうとした。それが実際、出来てしまうなんて思いもしなかったけれど。
奏は言った。「あなたがその能力を持ったが故に、未来では記憶の交換が日常茶飯事に行われるの」
なんで未来のことまで知っているのかは聞かなかった。全てまとめて、後でゆっくり話してもらおう。
そして、いよいよ最後は貴田先生の記憶だ。
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