ボーダー
オレにとっても……予想外の収穫だった。

誰なんだ?その犯人。

『レン。……浅川 将輝のことは聞いたな?
俺も、ハナの中学の同級生から聞いたんだが。もう1人は……帳 奈斗だ。』

「……オレは一生聞きたくなかった名前だな。」

精一杯の侮蔑を、声に込める。

『オレも同感だ。
……2人はグルだったらしい。
生育歴も似通ったところがあって、すぐに意気投合したようだ。』

「……分かった。
わざわざありがとう。」

やかましいな、なんて思ったことを、日本に帰ったら謝らなければならないだろう。

『あ、忘れてた。
……今は2人とも、日本にいるらしい。』

「そっか。
……おかげで眠気覚めたわ。」

『また連絡しろよ?
いつでもいいからな。
お前の惚気話も、聞くのを楽しみにしている。
俺の倍くらい、ハナの方が聞くのを楽しみにしているんだがな。』

「惚気話、って。
お望みならいくらでも。
尽きない自信ある。
まだ指輪はあげてないけど。

わかった。
また連絡するよ。」

『はぁ?
どうせ、オレもそうだったから、人のことは言えない。
だが、それを承知で言わせてくれ。

最後の最後、間際に大好きやらそんな台詞を言ったんだろ。

改めて気持ちを言わないなどどうかしている。

オレは、付き合ってすぐに指輪をあげたが。
指輪くらい渡すべきじゃないのか?
浅川という奴と帳をアメリカに引っ張ってくるために、一度日本に帰るんだろ。

指輪も何もなしに、恋人になった2人が遠距離恋愛に耐えられるとは思えないが。

何かあれば協力する。
大事な幼なじみをオレに譲ってくれたんだ。
今度は、もう一人の幼なじみであるお前の幸せを見届けたいからな。」

そこまで言われて、はたと気付く。

アメリカでは、婚約するまでは指輪の類は送らないんだった!

恋人関係になるのも、彼女の友人や家族、時には自分の家族だったりするが、それらの人たちにガールフレンドだと紹介することがキッカケになることが多い。

その旨を話すと、ミツはビックリしていた。

「じゃ、また連絡する。
帰ったらお前も、惚気聞かせろよ。」

そう言って、電話を切った。

幼なじみらしいやり取りに、笑みが溢れた。
ミツは有言実行の男だ。
オレの幸せを見届けるために、密かに行動していたなんて、知る由もなかった。

さて、オレもシャワーでも浴びて来るか。

あ、シーツ洗っておかなきゃな。
でも洗いかたとかわかんない。
とりあえず洗濯機の中に放り込んでおいた。
他の濃い色のものや柄物と一緒にしなければ、大丈夫だろう。

洗濯機の蓋に手をかけると、ヘアワックスと同じような形の容器が視界の隅に入った。

何だコレ……

ボディーバター?

その容器から漂う香りは、昨夜のメイのものと同じだった。
なるほど。

昨夜オレがメイの香水だと思った香りは、これだったか。オレにとっては、理性を保てなくさせるだけの香りに過ぎなかったが。

この香りがお気に入りだと後で伝えなきゃな。
この香りを纏わせるのがオレとメイが甘く激しい夜を過ごす合図。
そうしておくと分かりやすいかな。


そんなことを考えながらシャワーを浴びていると、コントロール不能になってきた。
朝だから余計だ。
自らの手で自身を落ち着かせる。
思い浮かべるのは、もちろん昨夜の一糸纏わぬ色っぽいメイの姿。

「はぁ……やべっ……あっ……!」

欲を吐き出すと、固まる前に洗い流す。
身体を丁寧に拭いてTシャツを着る。
下はスエットだ。

部屋に戻って一息つこうとすると、ドアの前にメイがいた。

「遅いよ!蓮太郎!
……何回も呼んだんだからね?
もう!」

「ごめん。
シャワー浴びててさ。」

「蓮太郎ったら!
それなら言ってよね!

朝ごはん、冷めたら無駄になるし。

早く食べましょ?」

昨夜の後遺症か、腰を擦りながら階段を降りるメイ。
その後ろ姿を見ると、ニヤける。

オレがメイにこんなに幸せな後遺症を残すことが出来た優越感と、新婚ホヤホヤの夫婦みたいな、さっきのやり取り。

メイにはバレないようにしなきゃな。

お風呂でメイを思い出して自分で処理したことも、今ニヤけている理由も。
< 191 / 360 >

この作品をシェア

pagetop