ボーダー
キャビンに戻ると、すでに皆の分の布団が敷いてあった。

なるほど、すでにガールズトークの準備はバッチリらしい。

「すぐわかるよ。
その様子じゃ、矢榛くんと付き合うことになったんでしょ?」

さすがは由紀。
よくわかってる。

「そうだよ。
信ちゃんと……付き合うことになった。
信ちゃんのことも気にはなってたの。
いつも私の心配してくれるし、気にかけてくれるし。」

「ホラ。
だから言ったでしょ?
誰が何と言おうと、好きって気持ちは止められないのよ。
ね?そうでしょ?有海。」

な……何か……
場の空気が一気に重々しくなった気がする……
なんかお葬式みたい。

「私はね、まだ好きなの。
帳奈斗のこと。」

「えっ……」

嘘……でしょ?

有海が!?

だって、自分だってあの男が指示したいじめを実行して学校を退学にされたのに。
何で、あんな奴が好きなの?

「ハナ……
ホントにごめんね?
ハナがあの日3人の男にレイプされたあの日のことは……全部私のせいだから。」

あのことが起こる数ヶ月前、アイツは有海にこう言ったみたい。

「なあ、精神的にも肉体的にも苦痛を与える方法……知ってるか?

……気に入らない女をレイプすんだよ。」

ちょっと迷いながら、有海の目をまっすぐ見ないようにしながら言った言葉らしい。

「必死に止めたけど、奈斗は逆に脅してきた。
『オレに逆らうと同じ目に遭わせるぞ?』
って言われたわ。
それでもよかった。
こんな形でも、好きな人に愛されたかったの。」

結局、有海はたった一人で引き止めに行った。だけど、その甲斐なく心身共にボロボロになって帰ってきたのだった。

それから数週間は何もかもが精神的に負担になっていて、大好きなピアノを弾こうとしても、身体が拒否反応を起こすくらいだったという。

「…… 有海……。
何でそこまでしたの?
そんなことする必要なかったのに!

有海まで、私と同じ目に遭うことはなかったんだよ?」

ハナも、信じられないという様子で、半ば叫ぶように有海をたしなめる。

「信じられなかったの。
奈斗、昔はすごい優しかったのに……。
その彼がこんなこと言うなんて思いもしなかった。」

「……相当重症だよ。
レイプされてるとはわかってたけど、ちょっとだけ嬉しかったとか言ってる辺り。

有海、その被害に遭った数ヶ月前は初潮来てなかった、って言ってたわよね。
妊娠の可能性ないならよかったけど。」

ため息をつきながら呆れ顔で言う理香。

話の続きは明日の夜にして、今日はもう寝ることにした。

皆悩んでるみたい。
私だけ、好きな人と付き合えて。
こんなに幸せでいいのかなって思うとなかなか眠れずにいた。
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