俺様と奏でるハーモニー
「あのね、いい意味で言ってるから怒らないでね」
一応、前置きして話し始める。
「森本先生って、女子にしては手が大きくて指が長いでしょ?」
「うん。実は、婦人モノの手袋が全然合わないくらい、手が大きいの」
すらりとして背も高いから、私としてはうらやましい位手が大きいわ。
「じゃあ、思い切って『月光』弾いてみない?」
「月光?」
「そう。ベートーベンのピアノソナタ『月光』第一楽章!
この曲、とってもゆっくりだし、左手はオクターブでゆっくり押さえるだけだから、手の大きな森本先生なら弾ける!
この曲の楽譜とCD、後で渡すわね」
「そんなすごそうな曲、私に弾けるかな……」
「初心者だからこそ、左手が簡単でゆっくりした曲がいいの。
それとね、私も実技があったからわかるんだけど、長い曲は試験官が途中で『結構です』って言って切るから、後半の難しいところは弾かずに済むの。
さらに! バイエルよりだんぜん高得点が狙えるわ!」
どう? 私の戦略。