妖(あやかし)狩り~外法師・呉羽&妖刀・そはや丸~
「あとは、これを」

呉羽は、懐から取り出した数枚の紙を、多子に手渡した。

「ご自分に危害が及びそうになったら、‘急急如律令’と唱えて、放ってください」

「きゅうきゅうにょりつりょう?」

呉羽は頷いた。

本来は式がやるべき内容の後に唱える呪文だが、そんなこと、窮地に陥った慣れない人間が、いちいち考えてはいられないだろう。
呉羽の渡した式神は、ある程度は放つ人の意思を酌んで行動できるようにしてある。

急急如律令---‘急いでやりなさい’とだけ命令すれば、何をすべきかは、切迫具合で式が勝手に判断してくれる。

「後で右丸にも、少し分けてやってください」

「お姉様が渡して」

間髪入れずに、多子が言う。

「何故」

「お姉様に渡されたほうが、ありがたみがあるでしょ」

「・・・・・・何故」

怪訝な表情で聞き返す呉羽に、多子はにやりと笑った。

「いいから。お願いね」

そうこうしているうちに、車は六条河原院に到着した。
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