DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
 いつの間にバスルームを抜け出したのだろう。

 ビショ濡れのリトルが、ソファーで眠っていた千聖にのし掛かっていたのだ。

「きゃあああぁっ!リトル、止めてええぇっ!」

 未央の声も聞こえ無いのか、リトルはウゥッ、ウゥッ、と喉を鳴らしながら千聖の首の辺りに何度も口を押し付けている。

 傍に行こうと思っても、足が震えて一歩も動けない。

「リトル!お願い、止めてぇえええっ!リトル!リトルぅううっ!」

 未央はただその場で叫び続けた。

 その時――

 リトルを押し退けようとしていた千聖の手が、ふいに動きを止める。

 そしてユラリと揺れると、床に向かって力無くパタンと落ちた。

「千聖……あ―― ああぁ……嫌……嫌あぁああっ!千聖ぉおお!」

 思わず両手で顔を覆い、未央はその場に座り込んだ。

「千聖……そんな……そんな事………リトルが千聖を噛み殺すなんて――。私のせいだわ……私がいけなかったんだわ。千聖……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 自分の不注意だった。

 後からあとから涙が出た。

 でも、まさかリトルがこんな凶暴な犬だったなんて信じられなかった。

「今さら謝っても遅いんだよ」

「分かってるっ!でも、でもぉおお!……千聖が死んじゃうなんて……えぇっえっ……」

「泣いたって駄目だ。もう取り返しがつかない」

「分かってるってば!黙っててよ!……えっえぇぇっ……―― えっ?」

 未央は顔を上げると、ガバッと立ち上がった。

 目の前に千聖が立っていたのだ。

「千……聖?……嘘――」

 後ろに下がろうとして、フラ付いてドアにぶつかる。

「……もう出たの?」

「えっ?」

「お化け……」

「あのなぁ――」

 千聖は片手を額に当てて、大きく溜め息をついた。

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