DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
MISSION 15 ― 地獄の番犬 ―


 暗い廊下に目を凝らす。

 ここへ来た時と何の違いも無い。

 いや―― 違う。

 未央は言葉では言い表せない空気に、闇の中へ目をやった。

 二つの青い光――

 途端に全身が総毛立つのを感じた。

『あんたは事前にここへ忍び込んだだろう?その時匂いをマークされたはずだ。だからこのドアの向こうにはもう奴は待っている。あんたを噛み殺そうと目を輝かせて』

 コメットの言葉が頭を過ぎった。

(ケルベロス?地獄の番犬―― 私をマークしている?)

 相手が人間なら、例えどんな相手でも話し合う余地もあるだろう。

 けれども犬ではそれも適わない。

 ただ逃げるしか無いのだ。

 未央はゴクリと唾を飲んだ。

 そっと廊下に出る。

 床の近くにあった青い光はスッと位置を変えると、音も立てずに近付いて来た。

 真っ黒な大きな犬―― ドーベルマン。

 同じ犬でありながら、リトルとは全く違う鍛え上げられた鋼のような身体。

 それも当然。

 ドーベルマンはドイツの軍用犬だ。

 そんな事は未央でも知っていた。

『ママ、おっきいワンちゃんが未央のこと見てるよ。恐いよ』

『大丈夫。ワンちゃんは未央と遊びたいなぁって思ってるだけだから。でもね、未央が遊びたくない時は走っちゃ駄目。走るとワンちゃんも真似して走りたくなるから、歩いてバイバイするのよ。分かった?』

『うん!未央、分かったよ』

 幼い頃、母から聞いた言葉が頭を過ぎり、未央は頷いた。

(やっぱり一緒に遊ぶって雰囲気じゃ無いものね)

 未央は静かに歩き出した。

 犬が小走りについて来た。



< 140 / 343 >

この作品をシェア

pagetop