DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「が―― 学校で新聞紙を使うの。それで千聖の書いたのが乗ってるやつを持って行って、響に見せて自慢しようかな……なぁんて思って」

(千聖がコメット?)

「なんで俺の書いた記事を、あんたが自慢しなきゃならないんだよ」

(ね、千聖……千聖はコメットなの?)

 頭の中だけで問い掛けながら、口では違う言葉を発する。

「そっか!やっぱりそれってヘンか――」

 未央はそれに耐えられなくなり、わざと明るく答えて千聖の左脇を擦り抜けた。

「ッ――!」

 すれ違いざま、未央の肘が腕にトンとぶつかった途端、千聖が小さく声をあげた。

「えっ――?何?どうかした?」

「……何でもない」

「でも、顔色悪い――」

 言いかけて言葉を止めた。

 また怒鳴られるかと思わず緊張する。

 ところが――

「何でも無い、俺の事なんか気にするな」

 千聖は静かにそう告げて、少し引き攣った感じで微笑んだ。

 直後にクルリと背を向ける。

「それより早く寝ろ。もう遅い」

「千聖……」

 そのまま千聖は部屋に戻った。

 そしてドアを閉めると、途端に顔をしかめ、ドアに背をつけ崩れるようにズルズルと床に座り込んだ。

 ケルベロスに噛まれた傷がズキズキと疼く左腕を抱え込む。

 バスローブを捲り上げると、溢れ出た血は既に包帯を真っ赤に染めていた。

「俺はいったい何をやってるんだ?何で他人に関わる?一人で生きて来たのに。ずっと一人で生きて行くって決めていたのに……」

 思わず苦笑し、千聖は首を横に振った。


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