DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「ニャオォオン……」

 突然の場違いな猫の声に、千聖は足下に目をやった。

 まるで縫いぐるみのような白いフワフワの猫が、じっと見上げている。

 目が合うと、もう一度鳴いた。

「こんばんわ、お嬢さん。一人かい?だったら少し話しをしようか」

 微笑んで抱き上げると、猫はその首にプラチナのチェーンで出来た首飾りをしていた。

「もしかして君は――」

 猫を撫でながら呟いた時、一人の女性が歩み寄って来るのが視界の隅に入った。

 長い髪の美人。

 背も高く、スタイルもいい。

 思わず見ずにはいられないタイプだ。

「クレオパトラ!良かった見付かって」

 胸に手を当ててホッと息を吐いたその女性に向かって、千聖が問い掛ける。

「この子君の猫?」

「ええ、捕まえてくださったんですね。ありがとうございます。何処かへ行ってしまうかと思って心配しましたわ」

 その美しい娘がニッコリ微笑む。

「名前、クレオパトラっていうんだ」

「ええ。良い名前でしょ?」

「ピッタリだ。気品があって優雅で」

 答えながら、千聖は猫を女性に手渡した。

 途端に身を捩って、猫はまた床に降りた。

 そして直ぐに千聖に摩り寄った。

「クレオパトラったら!」

 女性は口元に手を当てて笑った。

 それから千聖に視線を戻し、軽く首を傾げた。

「あなたのこと気に入ったみたいですわね」

「じゃあ僕はアントニウス?」

「まぁ!フフフ……あなたって面白い方ね。では、私に本当のお名前を教えてくださるかしら。アントニウス?」

 千聖が抱き上げた猫の頭を撫でる。

「向坂千聖と言います」

「私は米村瞳」

(米村?この猫が一緒に居るという事は……あの米村の娘)

 千聖は頭の中で呟いて、黒い瞳にその娘を映した。

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