DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
MISSION 18 ― マジカル・ムーン ―


 永池の屋敷は広い敷地の中にあのパーティーが開かれた洋風の母屋と、日本式家屋の別棟の建物とがあった。

 洋館では息子夫婦が、そして日本式家屋には、今は永池秋江一人が身の回りの世話をする女性と暮らしていた。

日本庭園――

 築山の麓に作られた小さな池に映った月が美しい。

 その静かな中庭に、スッと影が現れた。

 辺りを見渡しゆっくりと縁側に近付いたそれが、障子を開けて滑るように中に消える。

 隠し金庫のある戸棚を開けてそっとダイヤルを掴むと、ゆっくり回し始めた。

 あっという間に金庫が開く。

 少し軋んだ音を立てて扉が動いた時――

「さすがね。その金庫をいとも簡単に開けてしまうなんて。でも【マジカル・ムーン】はここ。そこには入っていませんよ」

 囁くような人の声に、金庫の前の人影は襖で隔てられた隣室を振り向いた。

 襖が静かに開く。

 車椅子で現れたのは秋江だ。

「こんばんわ、コメットさん。いいえ―― 向坂千聖さん」

「フッ……」

 名前を呼ばれ、千聖は額に手を当てて笑った。

「気付いていらしたんですか。俺のこと」

「ええ、このあいだパーティーでお会いした時、直ぐに分かりましたよ。きっとあなたがあの怪盗コメットだと」

「それは凄い。どんな名探偵も敵わないでしょう。それに、こんなふうに待ち伏せもお上手だなんて」

 その言葉に秋江が微笑む。

「分かっていますよ。あなた、私がここに居る事を知ってらしたでしょう?知っていて現れた」

 敢えて否定も肯定もせずに、小さく肩を竦め千聖は口角を上げた。

 開かれたままの縁側から、微かに風が吹き込んでくる。

「それで……どうなさるおつもりなんです?捕まえて警察に突き出しますか?」

「フフフ……さあどうしましょうね?」

 今度は、秋江が十代の娘のように首を傾げて笑った。

 千聖は暫くその様子を眺めてから、口を開いた。



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