DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 今度は何を言いたいのか分からないという風に首を傾げた千聖に、立てた人差し指を二度曲げ伸ばししてもっと近付けと合図する。

 仕方なく状態を曲げて顔を近付けると、村岡は耳元に囁いた。

「どうだ?年齢はおまえより二歳上だけど美人だろう?」

「はあ……」

「仕事が楽しくなるだろう?」

 そして肩をポンと叩く。

「で、早速だが――」

 やはり、嫌な予感が的中したと千聖は苦笑した。

「ちょっと彼女を連れて取材に行って来てくれ」

「はい――」

(最悪だ――)

 千聖は心の中で呟きながら、目があった溝口に向かって肩を竦めた。

 一旦席に戻り外に出る準備をする。

「いいなぁ、美人と一緒で。仕事が楽しくなるだろう?」

 さっそく溝口がやって来て笑った。

「デスクと同じ事言うなよ」

 必要なものを手に取りながら、千聖は肩を竦める。

「何なら変わってやろうか?美人と組める仕事」

「いや、遠慮しておくよ。美人だが俺のタイプじゃない。それに――」

「それに?」

「おまえくらい器量が良くないと、美女と野獣だって言われるからな。おっ、美女が来たぜ。ま、とにかく頑張ってくれや」

 がっちりとした体格の溝口は、肩をポンと叩くとさっさと行ってしまった。

(全く……どいつもこいつも勝手な事ばかり……)

 溝口の背中を見送り、千聖は溜息をついた。

「用意できたわ。行きましょう」

 真紀子に促されて社会部の部屋を出る。

「千聖―― って呼んでいいかしら?」

 階段を下りながら、真紀子が言い出した。


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