DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 千聖は立ち上がると、未央の手からパンフレットを引ったくった。

 もう一度ソファーに横になる。

「ねぇ、千聖」

「……なんだよ」

「一緒にさ、行ってみない?中央美術館」

「なんで?」

 少し複雑な顔で未央が質問に答える。

「石―― 石を見に」

 途端に千聖は飛び起きた。

「あんた……」

「石があるんでしょ?【影】の。真紀子さんから聞き出したんでしょ?あの日、そのために真紀子さんここへ連れて来たんでしょ?」

(そうだよね?千聖。好きな人だからここへ連れて来たんじゃないよね?好きな人だから朝まで―― 朝まで一緒に居たんじゃないよね?)

 未央は心の中で呟くと、驚いたように自分をじっと見つめている千聖に微笑んだ。

「―― 参ったな」

 未央の真っ直ぐな視線に千聖は目を逸らす。

 好きでもないのに真紀子と―― そう言われているような気がして、心の中が何ともいえない罪悪感でいっぱいになった。

「行こうよ、一緒に。一人よりカップルで行った方が怪しくないでしょ?」

 千聖は額に手を当ててフッと笑った。

 確かに未央が言うように、紙の上で考えているより実際にその場所に行ってみる方がいいに決まっていた。

 それに今は、このあいだ真紀子をここへ連れて来てからずっと胸を覆っている、未央に対する後ろめたさを振り払いたかった。

 本当は……本当に一緒に居たいのは、抱き締めたいのは……

「天気もいいし。ね?」

 身を乗り出した未央を見てソファーから立ち上がり、千聖は微笑んだ。

「それじゃあ行くか」

『それでいいのよ。自分の心には正直でなくちゃ』

 何故か真紀子の言葉が頭を過ぎった。

「うん、行こう!」

 理由はどうであれ、千聖と一緒に出掛けられる事が未央には嬉しかった。



…☆…
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