DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 考えてみれば、影の石を持っている人間と、こんなふうに進んで真正面から向き合うのは初めてだ。

「ごきげんよう」

「やあ、ごきげんよう。瞳ちゃん素敵なドレスだね」

「嫌だわおじさま。『ちゃん』はもうやめてくださいって申し上げましたでしょう?」

「そうだったかな?ゴメンゴメン。いつまでも君が小さいままのような気がして」

「おじさまもお父様もいつまでも私を子供扱いして!」

 瞳の言葉に神部が微笑む。

 それから、すぐ横にいた千聖に目をやった。

「そちらは瞳さんの恋人かな?」

「紹介しますわ。こちらは向坂千聖さんと仰いますの」

 少しはにかんだ瞳が千聖を見上げる。

 千聖は軽く頭を下げて、口を開いた。

「向坂千聖です」

「神部伸宏です」

 神部が差し出した手をギュッと掴む。

 途端に何故か背筋がゾッとしたような気がした。

 一言で言えば、危険な香りとでも言うのだろうか。

 動物が誰に教えられずとも危険を察知するように、千聖も目の前の男に何かを感じ取っていた。

 駐車場の方へ視線を投げ、神部が問い掛ける。

「あのポルシェは君の?」

「ええ、そうです」

「ほう―― 若いのにあんな物をお持ちとは。さぞかし収入の多い仕事をしていらっしゃるのでしょうね。それとも親の脛……ですか?」

「いいえ。両親は五年前に亡くなりました。仕事は――」

 千聖は真っ直ぐに神部を見て口角を上げた。

「泥棒をしています」

「フッ―― ハハハハ……面白い方だ」

 途端に神部は声を上げて笑った。 

「では、今日は何を盗みに?」

「僕は宝石しか盗まないんです。ですから、今日も宝石をいただきに」

「宝石専門ですか。まるでコメットのようだね」

 もちろん、千聖の言葉を真に受けるはずは無い。

 今話題の人物を、ネタに使った冗談と思っているに違いなかった。


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