DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 瞳はデッキで千聖を待っていた。

 前方に中野大橋。

 港の灯りもハッキリと見える。

 船上パーティーも、もうすぐ終わる。

 千聖はいったいどんなプレゼントをくれるのだろう?

 考えると胸がドキドキした。

 別に物をもらう事が嬉しいわけではない。

 千聖がプレゼントしてくれるという事自体が嬉しかったのだ。

 少しすると、千聖がやってきた。

 その姿を見ると、期待でますます胸が膨らんだ。

「お待たせしました」

「千聖さん。いったい何をプレゼントしてくださるの?」

「形には残らない物です。でも――」

「でも?」

「きっと心には残る」

 微笑んだ千聖の言葉に瞳が首を傾げる。

「えっ?」

「ほら……」

 直後、千聖の声を合図にするように、いきなり何処かで破裂音がした。

「きゃっ――!」

 瞳が耳を押さえたその途端、暗い空に色とりどりの花が開いた。

「花火………」

 続けてもう一つ音がした。

 波打つ海面に、光が反射する。

「綺麗……それになんて素敵。千聖さん……私、こんなに素敵なプレゼントをいただいたの初めてです」

 瞳は少し潤んだ目で、光の破片が僅かに残る空を見上げたまま呟いた。

「喜んでいただけて、僕も嬉しいです」

 バタバタと人の走る気配がする。

 花火の音を聞き付けて、調べに来たのだろう。

 千聖はそちらにチラリと目をやると、突然瞳の腕を掴んで引き寄せた。

「千聖さん?」

 そのまま強引に唇を覆う。

 少し離れたところで止まった足音は一瞬立ち止まったものの、直ぐに元来た方へと戻って行った。

 船がゆっくりと中野大橋の下を潜り抜ける。

「僕からあなたへのお礼です。今日ここへ誘ってくださった事に対しての――」

 千聖は頬を上気させて、胸にもたれ掛かった瞳の耳元へ囁いた。


…☆…

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