DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 強引に前屈みにさせられる。

 ほぼ同時に、神部の膝が腹に食い込む。

 蹲りそうな身体を引き起こされ、左の頬へ拳を喰らう。

 戻る拳の外側を、右の頬へ叩き付けられる。

 腹を押さえた腕の外側から、左脇腹へ拳が減り込む。

 更に左顔面に痛みが走る。

 頭の中が真っ白になる。

 未央の叫び声が耳に届いて、ハッとした瞬間。

 左へふら付いたところを、間髪入れず蹴り飛ばされ――

 鈍い音がして、千聖は勢い良く床を滑った。

 一瞬の間の逆転。

 僅か数発喰らっただけだというのに、既に脚に来ているのが判る。

 自分より体格の良い相手との、いかんともしがたい攻撃力の差に千聖は唇を噛んだ。

 ポケットからナイフを取り出し、腹を抱えた千聖の胸ぐらを掴むと、神部はニヤリと笑った。

「身軽さを活かした斬新な攻撃は、なかなか良かったよ。素人にしては上出来だ。誉めてあげよう。しかし君の体格だと、自分の力だけでは倒せないよ。相手の勢いを利用する方法も、覚えた方がいい。それから、一旦攻撃を仕掛けたら、何があっても止まらない事だ。君はまだまだ詰めが甘い」

「神……部……」

 呻くように声を漏らし、それでも睨み付ける千聖に神部は口角を上げた。

「さあ、どうする?跪いて、命乞いでもするかね?」

「俺が……そんな事をする人間に見えるか?」

 逆に問い返し、苦笑を漏らす。

 神部は目を細めてから、クックッと喉の奥で笑った。

「いい表情だ。ゾクゾクするよ。初めて会った時からそうだったが、君はじつに私を楽しませてくれる。これで終わる事を残念に思うくらいだ」



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