DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
MISSION 33 ― 聖なる夜に ―


「じゃあ行って来るよ」

 響は嬉しくてたまらないという顔で微笑み、未央の肩を抱き寄せた。

「響!」

 その手をパチンと叩かれる。

 リビングのソファーに座っていた千聖が、フッと笑った。

 あの日――

 クレイドル号は神部が言ったとおり、裕一と秋江、そして神部を乗せたまま海の藻屑と化した。

 船から脱出したと見られる若い一組の男女は、目撃者が複数いたにも関わらず、その後の足取りは不明。

 裕一と秋江の遺体は直ぐに見つかり、船を操縦していたと思われる男も見付かった。

 当初は身元不明だった裕一の遺体も、やがて歯の治療跡から五年前死んだはずの向坂裕一のものと確認。

 それに従い、秋江と裕一の関係があれこれ取り沙汰された。

 だが何故か、船の持ち主である神部の遺体だけは見つからぬまま――

 かといって、あの状況下では無事に逃げおおせたとも思えなかった。





「ねえ千聖、本当に大丈夫?」

 そして、クリスマスイブの夕暮れは予定どおりにやって来た。

「大丈夫だよ」

 しかし、全てが予定どおりという訳には行かず――

 千聖は自分の運の悪さに溜め息をついていた。

「だって熱、四十度もあるのよ?」

「もう薬も飲んだし、今日一日寝ていれば治る」

「そうだよ、だから早く行こうぜ」

 横から口を挟んだ響を未央が睨む。

 千聖はまた少し笑ってから、口を開いた。

「せっかく手に入れたフェニックスのチケットなんだ。無駄にしちゃ勿体無いだろう?それにスカイラウンジの予約も」

「でも……」

「俺の事はいいから、響と行っておいで。コンサート終わったらスカイラウンジで食事して、それから――」

「まさか――」

「えっ?」

 未央の態度に、千聖が不思議そうな顔をした。



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