DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「今、小学生の頃って――」

「流石さんの家の響君。喧嘩っ早くて有名だったんだ。このマンションの子は、殆どが彼に泣かされてた」

「なんだ―― 千聖、響のこと覚えてたんだ。だったら最初から言ってくれればいいのに」

「思い出したんだよ、怒鳴り声で。よく隣から聞こえて来ていた声だなって」

 千聖はフッと笑った。

 興味津々で未央が身を乗り出す。

「そんなによく聞こえたの?響の声」

「ああ、最低一日一回は『お母さんごめんなさい!もうしないから!』ってね」

「へぇ―― 響、毎日おばさんに叱られてたんだ。そんなに悪ガキだったの?フフッ、今とちっとも変わってないね」

「なんだよ!そんな子供の頃のこと……」

 未央に茶化され、響がふてくされる。

 千聖は未央と目を合わせてまた笑った。

「それでその声が聞こえて来ると、母さんが必ず言うんだ――」

 そこまで言い掛けた時、千聖の表情はふと硬くなって言葉を止めた。

 そして下を向いて、そのまま急に黙り込んだ。

「母さんが?なんて言うの?」

 未央が首を傾げる。

「響の事?なんて?」

 再度投げられた問い掛けにも千聖は答えなかった。

 押し黙ったまま、手にしていたコーヒーカップを静かに置いた。

「未央」

 響が思わず肘で未央をつつく。

「えっ?なあに?響」

 千聖はふいに立ち上がると、一つ息を吐いてからやっと重い口を開いた。

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