Faylay~しあわせの魔法
この戦艦には、もしものときを考慮して、皇家の者たちを逃がすための秘密通路が存在していた。先程ローズマリーと一緒に通った真っ暗な通路がそれだ。

その通路を開けることの出来るローズマリーのおかげで、ヴァンガードの両親のところへは比較的楽に進むことが出来た。

……落ちてくる隔壁も、ローズマリーの拳ですべて破壊されたので。


「父上! 母上!」

荷物の並ぶ狭い船倉に、後ろ手に両手を縛られた両親を発見し、ヴァンガードは駆け寄った。

「ヴァンガード!?」

2人とも驚きを隠せない顔でヴァンガードを見上げた。

「助けに来ました」

ヴァンガードは2人の縄を解き、立つように促す。

「貴方、どうしてここに! 支部長のところにいたのではないのですか!?」

縄を解かれた母、ビアンカは涙を浮かべながらヴァンガードの頬に触れた。

断腸の思いで切り捨ててきた息子に、まさかまた逢えるとは思っていなかったのだろう。震えながら息子の頬や頭を撫でるその手は、もう何も隠してはいなかった。温かい、手だった。

「母上、僕、全部支部長から聞きました」

そのぬくもりを感じ、喉の奥を傷めながらヴァンガードは言った。

「僕は……僕は」

目の前で涙を浮かべている母と、隣で口を引き結んで何かに耐えているような父を見比べながら、ヴァンガードは……それ以上、言葉が出なくなってしまった。

言いたいことは、山のようにあったはずなのに。

精霊士になれず、罵倒され、見放され、優しい手を差し伸べても貰えず、ただ、苦しかったこの10年のことを、ひとつ残らず吐き出してしまいたかったのに。
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