Faylay~しあわせの魔法
遥か昔、夜の闇より魔族は生まれ、昼の光から精霊が生まれた。

そして人は、両方の世界の間に生まれる。

三つの種族は互いの領域に踏み入ることなく穏やかに暮らしていたが、やがて知恵をつけてきた人が、光の中にある精霊の温かさを知り、闇の中にある魔族を恐れるようになった。

何も見えない闇の中に蠢く、異形の生物。

それはそこに在るだけで恐ろしいものに思えた。

人は臆病な生き物であったのだ。

自分たちとは違う、理解の出来ない生き物とは相容れない。

しかし精霊の存在は受け入れられた。自然とともに在り、穏やかな気質の精霊は、人に恵みをもたらす存在であったから。

三種族間のバランスがどちらかに偏り始めたとき、世界は変わり始める。

光を求める人と精霊。そして闇を纏う魔族。

この間に対立が起きようとしていたとき、彼女は現れた。

翡翠の髪を風に靡かせ、どんなに睨みつけても物怖じせずに傍に歩み寄ってきた。

「どうして反発しあわなくてはならないの? 闇の中にこそ、穏やかな安らぎがあるというのに」



あのときのティターニアの微笑を、魔王は忘れたことがない。

闇の中に生きる魔族である自分を恐れることなく、共に歩んでいこうと、生きていこうと手を差し伸べてくれた彼女の、温かな言葉も。

彼女と過ごした時間は、春風のように優しく、穏やかに流れていった。

それを根こそぎ奪い去った憎き人を。

『勇者』を。

魔王は赦さない。

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