超人戦争
 常世(とこよ)の闇が、白(しら)んでゆく。デーモンは久々の水に潤(うるお)った。
「デーモン」
 朝(ちょう)旭(ぎょく)が射す清清(すがすが)しい空間に、サタンの笑貌(しょうぼう)が有った。
「サタンか。此処(ここ)は?」
 幾星霜(せいそう)も苦界を漂流していたデーモンは、未だ意識が朦朧(もうろう)としている。
「目覚めたか。此処は南極だよ」
「南極?私は北極に居たのでは」
 デーモンは上半身を起こし、我が手足を繁々(しげしげ)と確かめている。
「君は、解放されたのだ」
「父上が?」
「否。父上ではない。私が君を」
「どういうことだ」
 二天使は、語り合った。恐竜戦争のこと。開戦直前のこの度の戦争のこと。神裁に対する疑問。南極について、等々。
 サタンは自己を曝(さら)け出し、デーモンに副司令官として、対神闘争に参陣(さんじん)するよう要請(ようせい)した。二天使が合意に達したのは、ハイヌーンであった。
「貴君(きくん)のやろうとしている争闘(そうとう)は、嘗(かつ)て私がなさんとして果たせなかった夢と同じだ。私は生命の生存権の為に、今一度起とう。成否(せいひ)は問わない。信念を貫く。これこそが、尊いことなのだ。サタンよ。貴方を生死を自在に操作できると思い込んでいる神、天使。そして地球の覇者(はしゃ)たらんと思い上がっている人間に対する正義の闘士(とうし)の指導者として、この身を捧げます」
「有難う」
 淡い光芒(こうぼう)を放つ二つの玉は、洞窟(どうくつ)内で手を取り合った。
「我等が組めば、何も懼(おそ)れるものは無い。父上様に生命の尊厳(そんげん)とは何かを知らしめるべく、共に最後の最後迄戦い抜きましょう」
「はい」
 サタンとデーモン。運命の二天使は全宇宙を相手の義戦(ぎせん)に、全身(ぜんしん)全霊(ぜんれい)を注ぎ込む肚(はら)であった。 
 
 この日、前日の神前会議を欠席し、臨戦(りんせん)態勢(たいせい)を整えているサタンに、神法違反の決裁(けっさい)が下され、神はアジアに大本営(だいほんえい)を設置するよう下令(かれい)した。
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